自然資源管理学研究室 Natural Resource Management lab.

セミナー報告(2017年4月17日)

世界の違法伐採問題と日本の木材消費:クリーンウッド法の効果的な実施に向けて

2016年5月に成立した「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)」。細則(基本方針、省令、施行規則)も整備され、いよいよ2017年5月に施行されます。この法律によって木材を取扱う企業は具体的に何を求められるのか、また本当に違法伐採木材は市場からなくなるのか、など関係者の関心は高まっています。

そこで本シンポジウムでは、そもそもの新法制定の目的、対象者や対象物品の範囲、そして新法によって求められることなど、新法について正しく理解することを目的として、欧米の違法伐採対策におけるデューディリジェンスの内容との比較も交え、クリーンウッド法の全貌を明らかにします。また各企業のこれまでの取組み事例を踏まえ、今後、新法の目的を達成するための効果的な運用を確保するために、各々が異なる立場において果たすべき役割や望ましいレベルでの取組みについても議論しました。

【開催概要】
日 時:2017年4月17日(月)13:00~17:00
会 場:早稲田大学 9号館第一会議室
(早稲田キャンパス(新宿区西早稲田1-6-1))

【プログラム】

  • 第二部 クリーンウッド法の効果的な運用に向けたステークホルダーの役割を考える
    • モデレーターによるQ&Aセッション
    • 全体討議/フリーディスカッション

【主催】
早稲田大学環境総合研究センターW-BRIDGEプロジェクト、九州大学熱帯農学研究センター、認定NPO法人国際環境NGO FoE Japan、一般財団法人地球・人間環境フォーラム

【後援】 林野庁

【セミナー概要】
本セミナーの参加者は123名であった。
第一部は林野庁木材利用課内田氏より、クリーンウッド法の概要について説明いただいた。モデレーターとのセッションではディープグリーンコンサルティングの籾井氏を迎え、施行規則、判断基準省令、基本方針の内容を踏まえ、法律がどこまでの範囲を求めているのかを明らかにすべく対話を進めた。
第二部の企業のセッションでは、第一種木材関連事業者として、商社から伊藤忠建材株式会社の関野氏、双日株式会社の熊谷氏、住友林業株式会社の飯塚氏を迎え、各社がこれまで取り組んできている木材調達における環境配慮について紹介いただいた。関野氏は「認証材」というキーワードを前面に出し、同社は認証材取り扱いを増やしていくことで環境対応を進めている、とのアピールであった。続いて双日の熊谷氏からは同社がグループ全体を対象として構築したデューディリジェンスシステムについて紹介いただいた。続いて住友林業の飯塚氏から同社がグリーン購入法への対応としてはじめた取り組みを紹介いただいた。モデレーターとのセッションでは地球・人間環境フォーラムの坂本氏より、クリーンウッド法の根幹の一つであるデューディリジェンスの要項が定められた第6条の内容や解釈に特化し、①合法性確認において何を持って合法としているのか、②書類の信頼性についての判断をどうしているか、③取扱回避がリスク低減の一つであるがその他具体的な方法があるか、についての質問を挙げた。3社、それぞれ視点、見解、取組み内容は異なるものの、既存の合法木材制度での要求水準を遥かに超えるレベルでの取組みを進めており、その取組み継続により他社等へ波及効果が期待でき、第一種木材関連事業者から提供される情報レベルが高いレベルで維持されれば、今後の法律運用の議論において、期待の持てる印象であった。
次は第二種木材関連事業者として、鹿島建設株式会社亘理氏、日本製紙連合会上河氏、積水ハウス佐々木氏を登壇者に迎えた。亘理氏からはグリーン購入法の直接の対象ではなかったゼネコン業界からのクリーンウッド法への率直な意見を交え、同法の森林・木材等に関連するCSR活動を紹介いただいた。上河氏からは日本製紙連合会が2016年6月に他業界に先駆けて開発・公表したデューディリジェンスシステムについて紹介いただいた。積水ハウスの佐々木氏からは2007年より取り組んでいるフェアウッド調達について、そして今現在見据えている次のステージへの示唆についても紹介いただいた。モデレーターとのセッションからは全国木材組合連合会の森田氏にも加わっていただき、九州大学の百村がモデレーターとなり、以下の3点を中心に議論を進めた。①第二種木材関連事業者として現状、第一種木材関連事業者からの木材を受けることについて、どんな懸念等があるか、②川上から十分に合法性の確認がされていない木材が納入された場合はどう対応するか、③全木連に対して合法伐採木材等、本問題に関する普及・啓発についてどんなアイディアがあるか、である。鹿島建設の亘理氏は「違法伐採問題や合法伐採木材に関する基本的な理解が業界の発注者や設計者の間で非常に低いことが問題ではないか」とのコメントがあった。彼らの意識向上がないとゼネコンとしてもなかなか対応が取りにくく、大きな課題の一つとして挙げられた。他方、積水ハウスの佐々木氏からは「これまで取組んできた住宅メーカーとしては、すでに納入先のメーカーとの関係性が構築されているため、採用する材についても共同開発的に検討するチャンスがあることもある」と、取引先の理解度によってはだいぶ柔軟な対応も可能であることが示された。日本製紙連合会の上河氏は、製紙企業が第一種にも第二種にも成り得る性質を持つことから考察して、実際には第一種と第二種とを厳密に分けることは難しく、どちらであってもきちんとトレーサビリティをとって合法性を確認をするのが望ましい。そしてすべてを第一種に任せるというのではあまり機能しない可能性が高く、全体としてきちんと合法性確認の取り組みを実施すべき、との意見が出された。また、全国木材組合連合会の森田氏からは「グリーン購入法より11年が経つものの全木連傘下の企業の取組み努力には限界があり、それは政府調達のみに限定されていたところが大きかった。よってクリーンウッド法第5条によって努力義務とはいえ、すべての事業者が合法伐採木材等を利用することが規定されたことは大きく、今後はデューディリジェンスのエッセンスを適切且つ上手く活用することにより、合法伐採木材等の市場が拡大できるチャンスもあると考えている」との見解が示された。

本シンポジウムは早稲田大学環境総合研究センターW-BRIDGEプロジェクト「『フェアウッド』の普及を通した違法伐採対策への意識向上の促進」の一環として開催しました。

関連リンク先

過去(2020年6月1日開催)のウェビナー「持続可能な木材調達のためのサプライチェーン管理~リスクフリーな木材製品をエンドユーザーに届けるために~」の報告はこちらをご覧ください。

過去(2019年12月5日開催)のセミナー「ESG投資でどうなる世界の森林 ~お金の流れが変われば森林減少は止まるのか~」の報告はこちらをご覧ください。

過去(2019年5月22日開催)のセミナー「SDGs時代の木材サプライチェーンの新潮流 ~持続可能な製品市場に対応する木材デューディリジェンスとは?」の報告はこちらをご覧ください。

過去(2018年4月26日開催)のセミナー「ESG時代の責任ある木材調達と製品づくりとは? ~SDGsの達成に向けた木材デューディリジェンスを考える」の報告はこちらをご覧ください。

公表した「木材デューディジェンスガイダンス」ならびに「木材デューディリジェンスハンドブック」はこちらをご覧ください。