ヘイズによる健康被害抑制のための持続可能な農林業
ヘイズによる健康被害抑制のための持続可能な農林業
ヘイズによる健康被害抑制のための持続可能な農林業
東南アジア大陸部のラオス、タイ、ミャンマーでは、乾季になるとヘイズ(煙害)が広がり、呼吸器などの健康被害が増えています。私たちは、九州大学アジア・オセアニア研究教育機構(Q-AOS)の「ヘイズ(煙害)と農林業」モジュールとして、農林業の側からヘイズを減らし、健康被害を抑える方法を、学際的なチームで研究しています。

ヘイズ(煙害)とは
ヘイズとは、農地の火入れや焼畑、森林火災から出る煙と微小粒子(PM2.5など)による大気汚染です。東南アジア北部では、主に乾季(おおむね1〜5月)に発生します。視界の悪化、健康被害、農林業や経済活動への影響をもたらします。農村部だけでなく、煙が流れ込む都市部や近隣国にも及ぶ、国境を越える環境問題です。
なぜ起きるのか:火の使い方と土地利用
農地では、陸稲やトウモロコシを植える前の火入れ、収穫後の作物の残りの焼却、家畜の放牧地で新しい草を出すための火入れが行われます。森林では、狩猟、蜂蜜・樹脂・キノコなどの林産物の採取、開墾のために火が使われます。これまでの調査から、次のような傾向が見えてきました。
- 火の発生は、農地と森林が接する境界に集中する
- 林冠が開け、草が茂った劣化林(乾燥フタバガキ林など)では、火が速く広がる
- 道路や小道の近くで発火が多い
森林のタイプによっても燃えやすさは異なります。ラオスの主な森林では、乾燥フタバガキ林が最も燃えやすく、混交落葉林が中〜高、常緑林は低いと考えられます。

ラオス・タイ・ミャンマーの状況
ASEAN特別気象センター(ASMC)の資料によると、2022〜2026年の毎年4月、東南アジア北部で火災のホットスポット(衛星で検知された高温の地点)が最も多い国はラオスで、とくに北部に集中しています。タイ北部でも、チェンマイやチェンライなどの都市が毎年1〜4月ごろスモッグに覆われます。2023年10月〜2024年9月には、北部で116万人以上が大気汚染に関連する病気で受診したと報じられています。
健康への影響
世界保健機関(WHO)は、屋外の大気汚染が脳卒中、心疾患、肺がん、急性・慢性の呼吸器疾患の原因になるとしています。2021年に改定されたWHOの指針値は、PM2.5の年平均で5µg/m³、日平均で15µg/m³です。東南アジア大陸部と中国南東部では、森林・植生の火災をなくせば、年間およそ5万9千人の早期死亡を防げると推計されています(Reddington et al., 2021)。
一方で、ASEAN諸国のヘイズと健康に関する研究を体系的に調べたレビューでは、条件を満たす研究は20本にとどまりました。呼吸器疾患(特にぜんそく)の増加は一貫して示され、子どもと高齢者が最も影響を受けやすいとされる一方、心血管への影響などは研究が少なく、対象地域も限られていると指摘されています(Ramakreshnan et al., 2018)。どのような農業や森林利用が健康被害につながっているのかは、まだ十分に分かっていません。
国際的な取り組みと課題
ヘイズは国境を越えるため、各国の協力が欠かせません。ASEANには越境ヘイズ汚染に関する協定があり、メコン地域では2017年に「チェンライ行動計画」が採択されました。2023年には、ラオス・タイ・ミャンマーが共同行動計画「CLEAR Sky」に合意しています。タイでは大気浄化法案の審議が続いていますが、2026年5月の時点で成立していません。法令の整備と、その実効性の検証が課題です。
私たちの研究
ヘイズは、健康問題であると同時に、環境問題であり、災害でもあります。本モジュールでは、公衆衛生、農林業、法令、大気汚染のモニタリングなどの専門家が協働し、ヘイズの実態の把握と具体的な対策の検討を進めています。主な対象国はラオスで、国境を越える影響を踏まえてタイやミャンマーも視野に入れています。モジュールの概要とメンバーは、Q-AOSのモジュール紹介ページ(English)をご覧ください。主な研究テーマは次のとおりです。
- 大気汚染のモニタリング
- 農地・森林管理(森林火災・農地火災)
- 環境関連法令の分析
- 健康影響(公衆衛生)
- 既存研究のレビュー
- 災害としてのヘイズの被害抑制と合意形成
これまでの活動
- 2020年2月:タイ北部チェンライ県でヘイズの実態を調査
- 2024年12月:ラオスで森林火災に関する聞き取り調査(お知らせ:ラオスの森林火災に関する調査)
- 2026年11月2日:九州大学アジアウィーク2026の政策対話(タイ・バンコク)で発表(お知らせ:政策対話の開催)
関連するSDGs




参考文献・資料
- Ramakreshnan, L., Aghamohammadi, N., Fong, C. S., Bulgiba, A., Zaki, R. A., Wong, L. P., & Sulaiman, N. M. (2018). Haze and health impacts in ASEAN countries: a systematic review. Environmental Science and Pollution Research, 25(3), 2096–2111. https://doi.org/10.1007/s11356-017-0860-y
- Reddington, C. L., Conibear, L., Robinson, S., Knote, C., Arnold, S. R., & Spracklen, D. V. (2021). Air pollution from forest and vegetation fires in Southeast Asia disproportionately impacts the poor. GeoHealth, 5(9). https://doi.org/10.1029/2021GH000418
- World Health Organization (2021). WHO global air quality guidelines.
- ASEAN Specialised Meteorological Centre (ASMC). Review of Regional Haze Situation (April, 2022–2026).
- BenarNews (2025年2月24日). Wildfires, cross-border haze complicate air pollution crisis in northern Thailand.